2012年07月19日

ロストループ

ロストループ_001.jpg
 破壊された市街地の上に浮かぶ巨大な異形の存在が、周囲に禍々しい気を放ちながら迫ってくる。それを見上げる私は絶望に囚われていた。
瓦礫に横たわる自分は全く無力であり、もはや巨大な魔女、ワルプルギスの夜に対抗する手段は何も無いのだ。
 今度こそと思ったのに!私は自問する。何が不足していたのだろう?
これまで何度も繰り返した、時間軸の経験を生かして、完璧な作戦を立てた積もりだった。
ワルプルギスの夜迎撃のために最大限の火力を集中した。自分に与えられた一ヶ月という枠の中で準備可能な最大限の戦力だった筈だ。
 でも、と私は思う。やはりこれでは不足だったのだ。残る答えは一つしない。もっと強力な兵器が必要だという事だ。
 そんな自分を、まるであざ笑うかのように、身を震わせながらワルプルギスの夜は進む。奴が向かっている、たった3キロメートル先には鹿目まどかが、そして多くの人々が集まっている避難所がある。
頬を濡らすもの、いつの間にか私は泣いていた。瞳からとめどもなく涙がこぼれ、歯を食いしばっても嗚咽が漏れる。
鹿目まどかを救うと決心して何度も同じ時を繰り返したのに、決してその願いは叶わないのか。
 自分を蝕んでいる絶望は、ソウルジェムも浸食して行くだろう。時間はもうない。彼女は右手を盾に伸ばした。盾に組み込まれた砂時計の砂は落ち切っている、もう時間停止魔法は使えない。出来る事はただ一つだ。
一瞬あいつの言葉が心をよぎる。いつも全てを見透かしたように話す奴。自分にとっての諸悪の根源。
奴は言っていた、私が鹿目まどかの因果の糸を全ての時間軸からたぐり寄せて彼女に収束させた。その結果、彼女は類い希なる魔法少女の資質を有するに至ったのだと。盾にあてた手に躊躇いが生じる。
 しかし、私は鹿目まどかを救わなくてはならない。
 一瞬の後に全てが反転した。自分以外の全ての事象のエントロピーが巻き戻されていく。巨大な渦に吸い込まれていく感覚。そして周囲が暗転する。

目に映るのは見慣れた病室の光景。壁にかかった退院までの印のついたカレンダー。この光景を何度私は目にした事だろう。今度こそは最後にしなくては。そのために私は更に強力な攻撃手段を手に入れなければならないのだ。
その方法には心当たりがある。しかし、それは心の片隅にはあったがこれまで封印してきたものだ。なぜなら大きなリスクを伴うのは明らかで、ワルプルギスの夜を倒せても、果たして鹿目まどかの安全を保証できるか自信が無かった。しかし、もはや選択の余地は無い。

 それから数日後、私はS市にいた。この街にはかつて帝国海軍の軍港が置かれていた。戦後は海上自衛隊と米軍の拠点になっている。
 私の目的地は、市街地からやや離れた米海軍の弾薬庫だ。街の中心部にあるJRの駅で降りて、弾薬庫がある地区まではバスに乗った、そしてやや手前で降りる。
軍事施設の警備は厳重だ、施設外にも監視カメラが存在している可能性がある。周囲は海に近い起伏の多い丘陵地帯で民家もそれほど多くない。
 魔法少女に変身した私は時間を静止させて、弾薬庫まで一気に駆け抜けた。米軍基地へはこれまで何度も侵入しているので迷いは無い。今の私には、武装した警備員のいるゲートも全く無力だ。
 ゲートを抜けると海が見えた。丘陵を背にして海岸沿いに幅の狭い平地が広がっている。そして建物が整然と並んでいた。管理棟や一部の施設を除くと、多くが平屋の建物で周囲は土を固め草に覆われた土手に囲まれている。
 これらは、元は帝国海軍時代の艦艇用の弾薬庫で、現在は米海軍が使用している。周囲の盛り土は、弾薬の爆発事故が起きたときに爆風を上に逃がすためのものだ。建物も壁は比較的頑丈だが、屋根が軽構造になっているのが判る。これらの建物は地区によって、少しずつ異なっている。
 私は、入り口に近い場所に固まった、小さな煉瓦造りの古めかしい弾薬庫に目を止めた。この弾薬庫の周囲には盛り土はない。建物の扉の上のプレートには前世紀始めの年号が刻印されていた。
 脳裏に、年末に放送されていた歴史ドラマを観たときの記憶が蘇った。
まだ近代化を始めたばかりの小さな日本が、北の強国と戦う物語だった。
この弾薬庫は、その時の戦争で使われたものだ。多くの人たちが、敵と戦って死んでいた。あの頃の私は何も知らず、なぜあの人々が死ななければならないのかと思い、ひたすら悲しかった。
でも今の自分ならば判る。彼らは自分にとってかけがえのないもの、大切な人を守るために命をかけて戦ったのだと。彼女は足を止めたのは、ほんの一瞬だったが、その古い煉瓦造りの建物は彼女の決心を強固なものにした。

 奥に進むと弾薬庫は数も規模も大きくなった。煉瓦ではなく木造の建物だったが、どことなく和洋折衷といった不思議なデザインだ。必死の想いで列強の一端に這い上がった帝国海軍が拡大した時期に建設されたのだろう。
更に進むと様相は一変した。地上の建物はなくなり、背後の丘陵を掘削した斜面に、扉のついたトンネルの入り口が並んでいる。これは航空機の攻撃に耐えられるように、地下弾薬庫にしたのだろう。
そのトンネルの入り口の一つに私は向かった。他の入り口より複雑な構造になっていて、警備員の詰め所まである。プレート番号を確認する、間違いない、ここが目的地だ。

 それを見つけたのは全くの偶然だった。私は米軍基地から効率的に武器を調達するために、ある時期から米軍のネットワークシステムへの侵入を繰り返していた。その際にS市の米海軍弾薬庫に、ある装備が保管されているのを発見したのだ。

私はトンネル内に入った。時間を静止させている自分にとって、ショットガンを携行した警備員は眼中にない。鍵を破るのも造作も無い事だった。難関は巨大な防爆扉とそれに付随するデジタル式のキーロックだったが、私には奥の手がある。

 私は左手につけた盾をロックに当てると意識を集中した。自分の能力は時間制御だが、盾の四次元ポケットでも判るように同時に空間制御でもある。単一の時空だけでなく、狭い範囲に力を集中させれば、無限に存在する平行宇宙を一点に束ねる事も可能なのだ。
 デジタル表示されている数字の列が目まぐるしく動き始めた。やがてその動きは目で見えない程の速さになった。
キーロックを解除するために。あらゆる可能性が試されているのだ。やがてカチリという音と共に鍵が開いた。同様の方法で私はネットワークでも米軍の高度なセキュリティシステムを突破してきた。

 開いた扉の奥には、コンテナがパレットの上に置かれており、それを開けると、円筒形をした物体が収まっていた。
これは特殊核爆破資材(Special Atomic Demolition Munition,SADM) と呼ばれるものだ。一言で言えば人が持ち運べる核爆弾である。
私がワルプルギスの夜を倒すために使用を決意した切り札だった。
もう二十年以上も前に廃止された兵器であり、本当は日本国内にあってはならないものである。しかし、米海兵隊向けの改良型が何等かの理由でそのまま保管されたらしい。
 通常の核兵器は大がかりな装置であり、威力が大きすぎるので、さすがに自分の手に余った。しかし、核砲弾の核爆発装置を流用したSADMの重量はおよそ70キログラムしかない、しかも爆発の威力を調節する事ができる。
私の目的に最適だったし、これまで多くの爆発物と兵器を扱ってきたので、充分に使いこなす自信があった。米軍からは多くの機密資料も手に入れてある。
 とは言え、大きな逡巡があった。これまでの兵器より格段に威力が大きいので、周囲への被害も大きいだろう。
爆発だけで無く、後に残る放射性物質の影響もある。核そのものに抵抗があったのも事実だ。
でも、今はやるしかない、鹿目まどかのために。


 そして、今再び、自分はワルプルギスの夜と対峙している。今度も前と同じように通常兵器を投入しているが、前とは目的が異なる。今回はワルプルギスの夜を市街地中心、特に避難所に近づけないのが目的だ。
 私がSADMの使用にあたって迷ったのは、その出力設定だった。
核爆弾(原爆)は中心部に中性子発生装置を組み込んだプルトニウムの塊を周囲の爆薬により、一瞬で押し潰して臨界状態にする。これをインプロージョン(爆縮)という。
完全な臨界を起こすためには正確なタイミングが必要だが、意図的にずらして完全な爆発を起こさないという操作も可能だ。それによりTNT 爆薬換算で10トンから1万トンまでの規模に調整できる。

攻撃はロケット弾の発射で幕をあけた。着弾するたびにワルプルギスの夜は唸り声に似た轟音を立てる。間を置かず次々と発射するたびに、使用済みのランチャーの山が築かれていく。
 私はSADMの出力設定をTNT爆薬換算で1000トンすなわち1キロトンに設定していた。ワルプルギスの夜を撃破できると判断した威力だった。この場合の致命的な危険半径は約2キロメートルだ。想定されるワルプルギスの出現位置は避難所から約3キロメートルだった。
 致命的でなくても、爆発の被害と放射性物質の拡散は、かなり広範囲に及ぶので、これでは余裕がなさ過ぎる。少なくとも5キロメートルは離れたい、それでも不安が残るのだ。

 炎と爆煙に包まれて、身を震わせながらワルプルギスの夜は徐々に市街地中心から離れていく。しかし、ごく僅かずつでしかなかった。更に爆発が連続する。しかし、手持ちの攻撃手段はもうすぐ尽きる。
 私は時間を停止させたまま、盾の砂時計を確認した。残る砂はもう残り少ない。SADMの収まったバッグを背負い身体にベルトで固定した。本体から伸びたケーブルには起動スイッチとカウンターがついている。
 砂時計を動かすと周囲が一斉に活動を始めた。ワルプルギスの夜下部で起きる爆発。あれが最後の攻撃だ。爆発が終わると、私は魔女に向かって一気に駆け出した。そのままジャンプして、ワルプルギスの夜をかすめて着地する。挑発された魔女は私を脅威と見なしたのだろう。即座に反応して攻撃をかけてきた。

「その通り、あなたの敵は私よ」
私は呟くと、攻撃をかわしながら拳銃を発射し、魔女を市街地と反対方向に誘導していった。現在の距離は約5キロメートル、更に引き離さないと駄目だ。
ついに時計の砂が尽きた、もはや時間停止はできない、起動から爆発までは10秒にセットしてある。もはや脱出は不可能だった。
「でも」
私は思う。鹿目まどかには全てを伝えた。彼女が魔法少女になる事は無いだろう。
「この魔女さえ倒せば全ては終わる!」
 距離はすでに5キロメートルを越えた。カバーを跳ね上げスイッチを押す。タイマーが10秒からカウントダウンを始める。私はワルプルギスの夜の直下に滑り込んだ。魔女が私を押し潰そうと降下を始めたが爆発まであと5秒。
 「お前の負けだ!」

 私は目を閉じた・・・・・・・・・・
 ・・・・・!「爆発が起こらない!」

私は目を開けた。そこは色の無い世界だった。全てがモノトーンに沈んで静止している。タイマーは残り1秒で停止していた。
「ありがとう、ほむらちゃん、でもこんなのは駄目だよ」
「まどか?」
「ほむらちゃん一緒に帰ろう」


破壊された市街地の上に浮かぶ巨大な異形の存在。それは周囲に禍々しい気を放ちながら迫ってくる。それを見上げる私は絶望に囚われていた。瓦礫に横たわる自分は全く無力であり、もはや巨大な魔女、ワルプルギスの夜に対抗する手段は何も無い・・・・・
「え、私は」
夢でも見ていたのだろうか?
その私の手を握りしめている少女がいた。
「もういい、もういいんだよほむらちゃん」
「まどか・・・」
 鹿目まどかは微笑んだ。


 全ては終わり、そして始まった。彼女の居ない世界で私は魔獣を狩り続ける。彼女を覚えているのは私しかいない、彼女は全ての魔法少女を救うために世界を書き換えた。
あの失われた夢の世界でも私はたぶん彼女に救われたのだ。


 私は決して彼女を忘れない。そして私は戦い続ける。

                  
おわり


         これはフィクションであり、実在する非実在魔法少女 とは無関係です。


 魔法少女まどか☆マギカで孤独な戦いを続ける暁美ほむら。彼女が最終回でもう一回時間を巻き戻していたらどうなっていたのだろう?というテーマで勝手な妄想を展開したのがこれです。(^^;
 ちなみにSADMはかつて実在した兵器です。何かで読んで凄いインパクトを受けたのですが、個人で携行できる核兵器って恐らくこれくらいのものでしょう。たぶん。ちなみにリサーチはいい加減なのでツッコミはご勘弁を。(笑)


タグ:御宅
posted by はるなブログ(コミPo!を主に使った日記) at 22:22| Comment(0) | TrackBack(0) | フィクション
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